仮想の話や小説、詩を思いのままに綴った日記です。

Ads by Google
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

ノイズ
遅い夕食

店のカウンター席

仕事の不安

家庭の不満

プライベートなこと…

頭がいっぱい

耳に飛び込む大音響のノイズ

静かにしてくれないか…?

いや、場違いなのは自分の方だとわかっている。

ノイズに負けない自分を演奏しなくては…

不協和音は孤独から


小説『美和子』69話(疑惑) 
小説『美和子』69話(疑惑) 


前回はこちら 小説『美和子』 68話(誕生日プレゼント)
最初から読む 小説『美和子』 1話(雪の中の小夜子)


優美のボーイに戻ってから、3か月が過ぎようとしていた。
ママも少しずつ元気を取り戻して、たまには店に顔を出すようになった。
この店のホステス達は、年齢が高いという話をしたが、社員の定着率は良くて、
誰も辞めるものはいない。ただ、節子さんだけは退店した。

毎日通って豪遊していた、あの社長と結婚したそうだ。
別れた先妻との間に、高校生の息子と娘がいて社長と住んでいた。
その子供たちの、母親役に徹すると決めたらしい。

優美の営業が終わって、テーブルの上のグラスなどを片付けていた時のこと。
京太郎から電話があって、金はいらないからキングに飲みに来いという。
美和子もいるから、相手になってやってくれと。

「聡志ちゃん。」美和子は、俺の顔を見ると、いつものように名前を呼んだ。
キングの店内の暗い照明の中で、美和子の白い顔は一際浮いていた。
派手に巻いた栗色の髪は存在感があり、どこかの店のナンバーワンであると
言わなくとも、誰の目から見てもわかるような風格を感じた。あの娘が。

テーブル席に着いていたのは、京太郎と修。それに見慣れない新人が1人。
「おお、渡。よく来たな。ゆっくり最後までいてくれよ。
俺、ちょっと、仕事してくるわ。」そう言って、京太郎は、俺と入れ替わるように席を立った。

美和子は酒が飲めない。それなのに、今日は、水割りを少し飲みたいと言い出した。
タバコを吸い終わっては、又、すぐ次のタバコを加える。
その度に、新人ホストや修が、ライターで火を点けた。
「小夜ちゃん。ちょっと吸いすぎじゃないの。」非喫煙者の修がいうと
「ちょっとね。なんかイライラするんだ。」美和子の視線の先を追ってみると、
20歳代の若い客と、いちゃついて楽しそうな京太郎の姿があった。

「仕方ないよ。仕事なんだから。」そう言って、なるべく京太郎の方を見ないように、
俺は、次から次にどうでもいい話をし出した。ホスト達も、協力して美和子の機嫌を
とってくれたお蔭で、なんとか閉店までいる事ができた。

「又、いつもの所で待っててくれ。」そう言われて、喫茶店に行く。
美和子と二人で、ポーカーゲームをしながら、京太郎を待っていたのだが、
現れたのは、修一人だった。
「小夜ちゃん。悪い。京太郎は急に社長とミーティングになって、来れなくなっちゃってさ。
後で、此処に電話かけるからって。」美和子の顔色が険しくなった。
黒いラメ入りのハンドバッグを乱暴に掴んで、化粧室へと消えて行った。

「京太郎は、どこへ行ったんだ。」美和子がいない隙に、修に尋ねる。
「最近、ちょっと、さっきの客に入れ込んでてさ。金持ってるみたいだからね。」
やっぱり。そんなことだろうとは、思った。
「ところで、小夜子ちゃんだけど、あの娘、ホテトルか何か風俗業なんじゃないの。」
「えっ。まさか。」杯中の蛇影であってくれ。

「ビールください。」席に戻りながら、美和子が店員に注文をする。
「小夜ちゃん。飲むの。」驚いている修を他所に、美和子は
ビールの小瓶を持って、小さなガラスのコップに勢いよく注ぎ出した。
泡が一気に盛り上がって、ビールはテーブルに溢れ出た。
こぼれたビールをおしぼりで拭いてやりながら、
さっき修が言ったことは、やはり真実ではないだろうかと疑惑をもった。

公衆電話の高いベル音が鳴り響いた。京太郎だ。
「どこへ行く気なの。おかしいでしょう。どう考えたって。嘘。」
美和子の激しい怒声が聞こえる。喧嘩をしている相手の声が聞こえないため、
一方的に彼女だけが、言いたいことを言っているような感じだ。

柳眉を逆立てていた、彼女の様子が豹変した。急に優しい笑顔になって
「ねぇ。聡志ちゃん。今日は、どこかのホテルに泊まらない。」と、言いだした。
茫然自失となった俺の腕をとって、美和子が甘えてきた。

こんな場面でさえなければ、彼女を愛することもできたのかも知れない。
著しく不愉快だった。恥ずかしさもあった。
「何を言っているんだ。冗談じゃない。」拒絶する言葉を口走った。すると・・・

「修さん。今晩、私と一緒にいて。」そう言って、修の隣席へ滑り込んだ。修も目が点になる。
俺の思考回路は完全に停止し、血液が一気に頭に上った。怒りで顔が熱くなる。
「お前、おかしい。今日は酔っている。帰るぞ。修。これで、金払っといてよ。」強い口調で言い放ち、
財布から抜き出した五千円札をテーブルの上に置くと、美和子の上腕を掴んで、店の外へ連れ出した。

嘗てない、俺の荒々しい言動に脅えたのだろうか。美和子は泣き出していた。
病院で出会った時の、あの素顔の美和子がそこにいた。
さっきの誘惑は、京太郎の浮気に対する当てつけ行為だったのだろう。
そうではなくて、美和子が本心から俺を欲してくれたなら、この両腕で抱きしめていただろう。

タクシーの中では、運転手がバックミラー越しにこちらの様子を伺っているのが解る。
大方、恋人同士の痴話喧嘩ぐらいに思われているのだろう。
美和子の家の近くで一旦停止してもらい、彼女が家に入るのを見届けてから、
又、タクシーの後部座席に滑り込んだ。

彼女の精神状態を案じた。やはり京太郎では、駄目だ。美和子が不幸になるだけだ。
かと言って、彼女の気持ちを変えてやれるだけの力が、俺にあるのだろうか。



つづく

著作権 (c)夜桜2026
Copyright Yozakura2026,All Rights Reserved

にほんブログ村 小説ブログ 脚本・シナリオへ FC2ランキング参加中 FC2 Blog Ranking



君が見ているもの
いつも笑顔でいた君が

今日は何だか淋しげに見えた

僕が隣にいる事を忘れてしまっているようだ

何を悩んでいるの

僕では駄目なの…

君が見ている人は誰?


勝者と敗者
敗者が言う。

「お前に私の気持ちなど、わかりっこない。」と・・・。

では、聞くが、お前に私の気持ちが解るのか。

勝ち続けて行かなくてはならない重圧感を、知っているのかと。


お前が私に負けたのは、己の未熟さだと知れ。

まだ、勝敗は解らない。

ただ私は、少なくとも、今のお前には負けないよ。

人のせい、環境のせいにしている限り、お前は伸びないだろうから。


そして、私も。

戦いになど、参加したくはないのに・・・。

師と対決しなくてはならない。


尊敬し崇拝して来た師が、あの手この手で・・・

汚い手を使って、私を蹴落とそうとするだろう。

私さえいなければ・・・。

何度も、そう思う。


私は、誰も傷つけたくはない。

そんなことを望んではいないのに・・・

どうして、こんな道になってしまうのだろうか。


江戸時代でもあるまいに・・・。

権力争いなんて無意味。


何故、その道に生きるのか、よく考えるべきだ。

自分が生き残る事だけに囚われて、汚い手で他者を蹴落とした所で・・・

その後、どうなるのかなんて、推測がつこう。

歴史は繰り返される。ちっぽけな社会の中でも。




小説『美和子』68話(誕生日プレゼント) 
小説『美和子』68話(誕生日プレゼント) 


前回はこちら 小説『美和子』 67話(焼身自殺)
最初から読む 小説『美和子』 1話(雪の中の小夜子)


美和子は芸名を小夜子と名乗り、どうもナンバーワンまで登りつめたようだった。
美和子が、どこの店で働いているのか、全く知らされてはいなかった。
新宿界隈の店ならば、俺も一応、大概の名前は知っている。
彼女がどこの店で働いているのか。俺は、気になって仕方がなかった。
もしやソープ嬢にでもなっているのではなかろうか。
毎日、京太郎とは連絡を取り合い、奴の店にも3日に1回は行くと言う。
そして、3日に1回は、俺の家に泊まる。

京太郎から電話があることもあったし、美和子から直接、優美に電話があり、
キングの近くにある喫茶店に迎えに来いと言う。
当時、スロットやポーカーゲーム機が流行っていて、その勝ち額は、換金する事ができた。
勿論、賭博行為は違法であり、摘発される店もあったと記憶している。
俺もたまに、一緒にやったことがある。
賭けるBET数にもよるのだが、スロットは、賭けた箇所の縦、横、斜め等の
ラインに図柄が揃えば当りで、オールフルーツなどもあった。
その持ち点を更に増やすチャンスがあり、機械が選択するトランプの数字を、
ビッグorスモールで当てる。当れば持ち点は倍になり、外せば持ち点はゼロになる。

期待値など数学的な法則から考えれば、恐ろしいことになるゲームなのに、
何故か、俺達3人は負けることが少なかった。
一時的なものであり、将来的な保証は何処にもなかったが、俺が、そんな事を
言っても、2人の楽しい時間を破壊するだけだと思った。
俺が知る限りでは、勝負運と言うものは、存在する。だだ、あくまでも運なので、
間逆の方向へ流れ、大きく転落する可能性も秘めている。


美和子の20歳の誕生日の事だ。
「何が欲しいの。」と、訊ねると、服か靴と言う返事が返って来たので、
一緒に買い物に行き、淡い桜色のワンピースと、揃いのハイヒールもプレゼントした。
値段は、良く覚えていないのだが、合わせて、6、7万円だったと思う。
美和子の着る服は、黒や白、赤や青などはっきりとした原色が多かった。
桜色の衣類等を着用するのは、初めてらしいが、彼女にとても良く似合っていた。

その後、俺の誕生日に、美和子が何かお返しをしてくれると言い、、
「何でも良い。」と、言ったのだが、どうしても俺に選んで欲しいというので、
渋々、近所のデパートに、美和子と2人で出向いた。

俺は、黒いジャケットに目を留めた。
「これが、欲しいんだけど。」と、言うと、美和子は、
「随分、安いね。とりあえず第一候補ね。もっと欲しい物があるといけないから、
もうちょっと見よう。」そう、言って、俺の腕を引っ張った。

マネキンが着ている春物の白いコートを目にした時、美和子が立ち止まった。
「どうしたの。」と、聞くと、
「これ、いいよね。欲しいな。」と、言った。
「買えば。」と、言ったら、相当悩んで、購入を決心したようだ。

開いたブランド物の財布には、札が思いの外入っていた。
俺は、かなり心配になった。アルバイトで水商売にと言っていたが、
もう、彼女は、足を洗う気はないのではないだろうか。
いや、もしかすると、水商売ではなくて、風俗店で働かされているのかも知れない。
今まで、俺の前で話していた店の様子などは、皆、真っ赤な嘘だったのかも知れない。
俺の疑念が、益々、深まった出来事だった。

その後、紳士服売り場で、俺は気に入る物がなくて、
「やっぱり、あのジャケットが欲しいな。」と、言うと、美和子が何か悩んでいた。
「どうしたの。」と、訊ねると、目の前にあったセーターを見つめながら、
「このメーカー、京ちゃんが好きなんだよね。この色合い、とっても似合う気がして。」
だからどうしたなどと、聞く迄もなく、俺と京太郎への2人分のプレゼントを
購入するには、持ち合わせが足りないのだろう。

俺は、又、道化師なのか。

折角の休日に呼び出されて、誕生日祝いのお返しだからと、商品を選んだ所で、
又、京太郎に敗北しなければならないのかと、内心、男としての自尊心には傷が入った。
俺の為に来てくれた筈が、美和子の心の中には、やはり京太郎が居て、奴の事が最優先なのだ。
「聡志ちゃん。悪いんだけど、あのジャケットさ、手付金を払って、数日中に
買い取るから、今日は我慢してくれないかな。」と、当然のように言う。

お前は、京太郎の彼女。お前から見て、俺はただの都合が良い男友達。
「いいよ。別に。買って貰えるんだから。美和ちゃんが好きなようにしたらいい。」
美和子は嬉しそうに、京太郎へのプレゼントを購入して、俺が目をつけた商品の売り場では、
「手付金を払うから、いいでしょう。」と、強気な客だった。
店側は、4万円のジャケットを購入する客に粗相がないよう、謙虚な対応をする。

俺は、金目的で人が変化する、上っ面のお体裁が大嫌いだった。
接客業のマナーとしては当たり前だし、その接客による優越感を売り物にするのが、
ホストクラブなどの客商売だった。

美和子には、水商売がどういうものかを、とんと教え込んだつもりだったが、
彼女は真の意味で理解できていないのかも知れないと、この時、少し目覚めた。


つづく

著作権 (c)夜桜2026
Copyright Yozakura2026,All Rights Reserved

にほんブログ村 小説ブログ 脚本・シナリオへ FC2ランキング参加中 FC2 Blog Ranking





小説『美和子』67話(焼身自殺) 
小説『美和子』67話(焼身自殺) 


前回はこちら 小説『美和子』 66話(安全牌)
最初から読む 小説『美和子』 1話(雪の中の小夜子)


俺が寝るベッドの下の絨毯の上に、布団を敷いて美和子が眠る。
水商売をしているので、寝るのはいつも明け方の頃だった。
1週間に2、3日ぐらい、美和子は俺の家に泊まっていた。

美和子の家の人は、美和子が外泊をしても心配ではないのだろうか。
大方、女の友人の所に泊まっているとでも、嘘をついているのだろう。
美和子の服装などからして、水商売をしていることは明らかだった。
小学校の校長先生をしていたという御祖父さんは、孫娘の将来をどう考えているのだろうか。

彼女の話によれば、両親の代わりをしてくれている御祖父さんは、
とても優しい人らしかった。ただ、前妻が亡くなった後、何年かして、
後妻をもらった事が、美和子にとっては、気に入らぬ出来事だったようだ。

同性である為、嫉妬も根深かったようだ。
彼女の話だけに耳を傾けると、底意地の悪い義祖母が浮びあがってくる。
「あんまりにも憎ったらしかったから、クソババァを階段の上から思い切り蹴飛ばしてやった。」と、
その時のことを思い出ているかのように、爽快な顔で美和子が言う。
現実味に乏しく想像でしかないのだが、高齢で腰の曲がった女性を、
階段の上段から突き落とす、残忍な美和子の姿が、目の前を横切って消えた。
「義祖母さん、大丈夫だったの。」感情を表には出さずに訊いてみる。
「痛いって、泣いていたよ。それを見ていい気味だと思った。後で、爺ちゃんには怒られたけど。」

俺が千秋の家に居られなくなったように、美和子も自分の家で居場所を失ったようだ。
俺もお袋の彼氏や、父親の彼女、子供に対して激しい嫌悪感を感じているが、
それに近い心理かなと納得する事にした。

その後のことだ。
「小学生の時、帰り道で呼び止められて、母親が目の前に突然現れてびっくりしたんだ。
死んだって聞いていたからね。その時はまだ、父親は私と一緒に暮らしていたの。」
深刻な話なので、ただ無言で聞くしかなかった。
「父親は女癖が悪くて、彼女がコロコロ変わってさ。ある女の人は、灯油を被って
焼身自殺したんだよ。父親の目の前で。その辺りから、父親が家には帰らなくなっちゃってね。」

又、衝撃的な映像が頭の中に浮んだ。
わざわざ男の目の前で、灯油を被って焼身自殺をする女とは、どういう感情なのだろうか。
もはや、理性は効かなくなっているのだろうが、そんなエネルギーは俺にはない。
いくら心変わりした千秋が憎いと思っても、相手の男に嫉妬を感じても、そこまでには至らない。

女は美和子の父親を、公園のような広場に呼び出したそうだ。
当時の事件として、新聞にも出たらしい。
目撃者もいたので、美和子の父が疑いをかけられることはなかったが、
火だるまとなった女が男の方へ近寄って行き、男は悲鳴をあげて逃げていたという。
苦しさで助けて欲しかっただけか、父親も巻き添えにしようとしていたものかは不明だ。
真実は、焼身自殺という選択をした本人にしかわからない。

そんな死に方をされては、美和子の父親もショックだっただろう。
家族の前から姿を消したのも、わかる気がする。

「でも、その後も結局、又、違う女と住んでいたよ。」
何事もなさそうに涼しげな顔をして、美和子が言った。
俺なりの解釈で言うと、自分の親の異性感のだらしなさを、
客観的に冷静さを装って、他人に事実を伝えている彼女は、
とても痛々しくて仕方がなかった。


つづく 小説『美和子』68話(誕生日プレゼント)  (02/09)

著作権 (c)夜桜2026
Copyright Yozakura2026,All Rights Reserved

にほんブログ村 小説ブログ 脚本・シナリオへ FC2ランキング参加中 FC2 Blog Ranking



小説『美和子』66話(安全牌) 
小説『美和子』66話(安全牌) 


前回はこちら 小説『美和子』 65話(琴の音)
最初から読む 小説『美和子』 1話(雪の中の小夜子)


美和子は、京太郎が紹介した店のクラブホステスになった。
俺は優美のママに詫びを入れ、その借りは自分の働きで返そうと考えた。

そして、美和子は京太郎に抱かれた。
3日に一度は、2人はホテルに泊まる仲になっていた。
それなのに美和子は、俺の家にも遊びに来て、泊まって行く事もしばしばあった。

お袋は、自分自身が男に夢中である事を責められずに済むせいか、
美和子が家に来る事を全く責めずに、容認していた。
友人の彼女だと言う説明も、もしかすると疑っているのかも知れなかった。

美和子は、京太郎の事ばかりを話すようになった。
あいつは、顔も体もぽっちゃりしているのに、手足だけが異常に細かった。
それは、幼少期から貧乏な家庭に育った証しであると、美和子に言ったらしい。
嘘か本当かわからないが、それが痛く美和子の心を打ったようだ。

京太郎の細い五本の指は、男の俺が見ても美しかった。
麻雀で盲牌をする時の指の動きは、見惚れてしまうしなやかさがあった。

指の動きや、行為中の言動などについて、美和子が
京太郎に抱かれている時の事を口にする事もあった。
時にはただの傍観者として、男として興味深い話でもあったし、
時には激しい嫉妬に包まれる内容でもあった。
しかし機嫌が悪い事を彼女に悟られることは、男としてのプライドが許さなかった。

美和子が俺の側に居てくれることは不快ではなかった。いや、むしろ
俺は美和子には、いつも遊びに来て欲しかったから、相変わらずの道化師を続けていた。

京太郎と泊まることができない日には、俺と一緒に新宿からタクシーで
俺の家に帰るという日が続いた。京太郎からも、付き合いの麻雀だの
彼女の家に泊まる日だのと、自分が自由になりたい日には、
美和子を宜しくと頼まれていた。どうやら、京太郎からすると俺は安全牌のようだった。
奴は、俺が千秋に未練があるという現実も知っていたし、確かに俺自身、
美和子のことを友人でもあり、妹や子供の様に見ていた時期もある。

2ヶ月も経った頃だ。美和子が余りに京太郎に惚れこんで、
「京ちゃん。京ちゃん。」と、恋しがるので、俺は思い切って、
景子さんとは、別れろと京太郎に詰め寄った。そうしなければ、美和子にも
有りの儘の現実を伝えるし、景子さんの彼氏にもバラすぞと脅かした。
京太郎はあっさりとそれを聞き入れたので、後は、本当の彼女と美和子の
どちらが奴の心を捉えるのかと、この時は応援していた時期でもある。

本当の彼女の事を美和子に言えなかったのは、京太郎を庇ったからではない。
美和子の心を傷つけたくなかっただけだった。
美和子が知らぬ間に、京太郎が彼女とは別れてくれれば良いと思っていた。
週に何度も帰ることがなく、女癖も悪い。暴力も振るうし金遣いも荒い。
そんな男と暮らしている女はどこが幸せなのかと、俺は勝手に思い込んでいた。

その時の俺は、女心が理解できない、野暮な男だったのかも知れない。
だからこそ、奴は、俺のことを安全牌だと思ったのだろう。




つづく 67話(焼身自殺)(02/02)

著作権 (c)夜桜2026
Copyright Yozakura2026,All Rights Reserved

にほんブログ村 小説ブログ 脚本・シナリオへ FC2ランキング参加中 FC2 Blog Ranking



小説『美和子』65話(琴の音)
小説『美和子』65話(琴の音) 


前回はこちら 小説『美和子』 64話(道化師)
最初から読む 小説『美和子』 1話(雪の中の小夜子)


タクシーの中で、腕時計を見ると時刻は午前6時になるところだった。
家に戻った俺は、2階に上がって、部屋のベッドに服を着たまま倒れこんだ。

美和子に何度も、本当に京太郎と付き合う気かと気持ちを確認した。
京太郎は景子さんとも付き合っているし、ホストなんだから
後で泣きを見るだけだと、口を酸っぱくして言うのだが、
俺が何を言っても逆効果だった。

友人でもある京太郎の事を批判するわけにもいかない為、
湾曲した物の言い方をしているにも関わらず、美和子の耳には、
惚れた男に対する批判としか聞こえていないようだった。

その内に、段々、馬鹿らしくなって来て、説得する気も失った。
大きなお世話だよな。美和子の心の問題だもの。
でも、けして、前座が主役を妬んだわけではなかった。

伯牙、琴を破る。俺の理解者が、又1人消えた。
俺の理解者なんて、過去にいたのだろうか。
理解してくれたと勘違いしてただけだろうな。きっと。

だから、その勘違いに気づいた時に、裏切られたような思いを抱くのは間違いだ。
俺は過去に、誰かを理解できていたか。
彼女、友人、父親、母親。
自分に関わる、すべての人間に対して、俺自身も又、
その場だけ、相手の心をわかったつもりになっていただけ。
本当に相手が求めるものに、応えることはなかったのかも知れない。

人を理解しようとも思わなかったし、共感できる相手がいなかったから、
今も孤独に過ごしているわけだ。

始めから、琴など弾いてはいなかった。
弾かない琴の音色を、褒めてもらっても、通常ならば嬉しい筈もない。
だが、孤独から来る寂しさ故に、人は味方を求める。
自分の良き理解者を、自分自身が作り出してしまう。

俺は、美和子の笑顔や素直さが好きだった。
病院で会った時の素顔の美和子も、俺の部屋で煙草を吸いながら
自分を捨てた両親への思いを語る彼女も愛しかった。
優美の面接の為に、厚化粧をして着飾った小夜子という女も、
別人のようでありながら、中身は美和子に違いなかった。

だが、その想いは、一言も本人に伝えてはいなかった。

京太郎は、美和子の事をとにかく褒めた。
「いい女だな。」「気が利くな。」「お前のそういうところが好きだ。」と、
初めて会話をした相手だというのに、彼は女心を掴む術に長けていた。
水商売歴も長く、だからこそ、新宿のホストクラブで上位の座を確保できている。

寂しさを抱える美和子も、又、女だった。
自分を理解してくれて、自分に優しい言葉をかけてくれる男を望んでいた。
嘘ではないかと疑いながらも、発せられるその言葉そのものには偽りがない。
ただ、同じような台詞が、量産されている事を知らないだけなのだ。
他に女がいるとわかっていても、自分が勝利者になれると思うのだろうか。

この日から、俺は美和子を友人として、彼女の事を理解しようと努めるようになった。


つづく 66話(安全牌)(01/27)

著作権 (c)夜桜2026
Copyright Yozakura2026,All Rights Reserved

にほんブログ村 小説ブログ 脚本・シナリオへ FC2ランキング参加中 FC2 Blog Ranking







小説『美和子』64話(道化師) 

小説『美和子』64話(道化師) 


前回はこちら 小説『美和子』 63話(小夜子)
最初から読む 小説『美和子』 1話(雪の中の小夜子)


居酒屋で時間を潰して、キングの開店時間の午後11時まで待った。
開店と、ほぼ同時に入店したにも関わらず、他にも3卓が埋まっていた。

お世辞にも容姿を褒めることのできない、センス悪い振袖を着た財閥の令嬢や、
若い女を囲って夢中になっている旦那に、相手をされずに満たされない奥様、
そして、今日は仕事が休みなのか化粧もせず、ホストと同伴して来た風俗系のお姉様。

俺達が飲んでいる間にも、客がどんどん来店し、席は埋まっていった。
ホストクラブキングは、繁盛していた。

俺達の席には京太郎の他に、
知らないヘルプのホストが何人か席に着いた。
修は欠勤で、三田さんは、自分の客と同伴出勤で遅れるらしい。

ホスト達は、客の俺達以上に、メインの京太郎に気を遣っていた。
俺が、元ホストだったから、察知できるのかも知れない。

美和子、いや小夜子も又、気を遣って、ホストのくだらない冗談に
付き合って、笑っていた。

京太郎は、俺の隣に座って
「彼女か?」と、聞いてきた。気恥ずかしさがあったが
「違うよ。彼女もあの病院に入院していて知り合ったんだ。
見舞いに来てくれた時、帰りに廊下ですれ違ったじゃん。
明日から、優美で働くことになってね。」顔色1つ変えずに、応えた。
「あぁ。あの時の。女って、わかんねぇな。化粧したら、別人だよな。」
心の中で、頷いていた。
「そっか。いい女だな。口説いてもいいか。」賑やかなバンドの演奏の中で、
一瞬、何を言われたのか、わからなかった。わかってからも、冗談だと思っていた。
「いいよ。」と、返事をした。ホストの口説き文句を、鵜呑みにする筈がない。
この店に来る前に、あれだけ念を押して、小夜子の気持ちも確認したのだから。

京太郎は、小夜子の隣に移動した。
俺は、席に着いていたヘルプのホストと話しをしていた。
途中途中、小夜子の笑い声も気にはなっていたものの、安心し切っていた。

「じゃあ、お前から言えよ。」京太郎の声が聞こえた。
「聡志ちゃん。私、京ちゃんと付き合ってもいい。」全く予期せぬ展開だった。
「御免ね。明日から優美で、働くのは止めたから。」一言も返事をしていなかった。

俺の単なる勘違いだったのか。独りよがりだっただけか。
小夜子、いや美和子にとって、俺の存在は何でもなかったのか。
俺だけが勝手に、美和子のことを特別な存在として見ただけだったのか。
唖然としている、俺に

「渡、そういうことだから。悪いな。」京太郎の声が聞こえる。
お前、女が何人いるんだ。美和子も騙す気じゃないだろうなと、思ってはみたが・・・
唖然として、言葉が発せないでいた。美和子が、俺ではなく、京太郎を選んだのだ。
ならば、俺はただの道化師。

「聡志ちゃん。本当に御免ね。」と、俺の目をじっと見て謝る美和子に、言葉もない。
優美のママに何て詫びれば良いのだとか、お前は俺に、俺だけは特別で
ホストには騙されない、男はこりごりだと言わなかったかなど・・・
心の中で、美和子を責めてはいるのだけれど、女を責めるのは嫌だった。

ましてや、自分の彼女でもないのに。こうなってくると、
昨夜、何故俺は美和子に手を出さなかったのかと後悔もする。

京太郎が景子さんと付き合っていることも、美和子は知っている。
人の男と知っていて、付き合うことを考えられるのか。相手の女のことは考えないのか。
わずか一時の間で、京太郎のどこに惚れたんだ。

「止めとけよ。こんな男のどこがいいんだ。俺と付き合えよ。」
サーカスの前座であるピエロは、心の中で、虚しく叫んでいた。
客は、華々しい空中プランコを観に来ていた。




つづく 小説『美和子』65話(琴の音) (12/30)


著作権 (c)夜桜2026
Copyright Yozakura2026,All Rights Reserved

にほんブログ村 小説ブログ 脚本・シナリオへ FC2ランキング参加中 FC2 Blog Ranking




小説『美和子』63話(小夜子) 
小説『美和子』63話(小夜子) 


前回はこちら 小説『美和子』 62話(テレビ番組)
最初から読む 小説『美和子』 1話(雪の中の小夜子)


待ち合わせの時間になって、美和子が駅の改札口に来た。
彼女が化粧した顔を見るのは2回目だったが、前回とは違ってかなりはっきりとした
濃い目のメークだった。美人ではないが、俺が見た美和子の中では、一番美しい姿だった。
スカートの裾が風に揺れる、白いワンピースを着ていた。

新宿まで電車で行くつもりだったが、気が変わった。
「やっぱり、タクシーで行こう。」
「えっ。どうして。お金高いでしょう。」
「いいよ。大丈夫だよ。俺が払うから。久しぶりに外へ出たんで、人ごみは疲れるんだ。」
そう、言って、今、美和子が上がって来た階段の方へと向かった。

駅前には、数台のタクシーが並んでいたが、俺が乗り場に近ずくと
一台の黄色い車体のタクシーの後部座席のドアが開いた。
美和子を先に乗せて、俺もシートに乗り込んだ。
「新宿の職安通りまで。」と、ドライバーに行き先を伝えると、ドアが閉まり、勢い良く車が走り出した。

「なんで、聡志ちゃんは、新宿のクラブで働き出したの。」
「あの見舞いに来ていた友達が、新宿のホストクラブで働いているから。」
「えっ。あの人って、新宿のホストなの。」美和子の声が高くなった。
「そう。しかも、今は店のナンバー2なんだ。俺も昔、ホストだったんだけどね。」
「えっ。聡志ちゃんも、ホストやってたの。あの人より、聡志ちゃんの方が売れそうだけどね。」
「ホストにもいろいろいるんだけどさ。やっぱり、ろくなもんはいないよ。
 目的は、売上とか金だからね。情に弱い女の子たちは、結局騙されて泣くんだ。」

タクシードライバーのことも気にしながら、本音の話を美和子に伝えた。
「そうでしょうね。テレビとかでしか、見た事ないけど。でも、騙される方も悪いんだよね。」
その問いかけには答えずに、俺は美和子に釘を刺した。
「優美はバイトにしておきなよ。本気で稼ぎたいなんて思わない方がいいよ。」
「わかってるって。3ヵ月だけのバイトだってば。」

優美の店に到着したのは、午後4時40分だった。タクシーメーターは3,000円ちょっとだった。
お釣りは受け取らなかった。当時はそれがマナーでもあるかのように、錯覚していた。

店に入ると、ママがいた。久しぶりにママの顔を見て 、安堵感を覚える俺だった。
「山ちゃん。元気そうで良かったわ。もう、すっかり、いいのね。」
「ええ。ご心配をおかけしました。明日から、復帰したいと思います。よろしくお願いします。」
「この娘が、紹介してくださる方なの。19歳には見えないわね。どうぞ、おかけになって。」
ママと美和子の面接の内容は、俺の記憶に余りない。
日当が15,000円だったと思う。俺よりも、美和子の給料の方が高い。今でも記憶にあるのは、
「店での名前は、何にする。」と、ママが尋ねると
「小夜子にします。小さい夜の子です。」と、美和子は芸名をすぐに決めた事だけ。
後で聞いたら、この時代に活躍していたモデルの名前だった。切れ長の目で、和風のモデルだった。

早速、今夜からでも働いて欲しいというママの要望を断って、美和子を店の外へ連れ出した。
「お腹すいたよね。」そう、言って、駅近くのしゃぶしゃぶの店へと、美和子を誘った。
「私、しゃぶしゃぶ食べるの初めて。」はしゃぐ美和子を横目に見ながら
千秋の家で、初めてしゃぶしゃぶを食べた 、あの時のことを思い出す。
幸せや楽しい思い出というものは、それを喪失して暗く落ち込んでいる人間にとっては残酷なものだ。
乾いた傷に、又、刃物を当てているような、そんな気がしてしまう。

「ビール、飲むかい。」と、聞くと
「実は、私ね。お酒は飲めないんだ。」美和子は下戸だった。
「優美でも、無理して飲まなくていいからね。ウーロン茶かコーラにしなよ。」
ぐらぐらと煮立つ鍋の湯に、肉を通して、美和子に食べ方を教えてやると
「ポン酢とゴマダレ、どっちが好き。」と、自分の口から出た時に、千秋に同じことを聞かれたなと
又しても、細い無数の針で心に小さな傷をつけていた。
「私、こっちの方が好き。」美和子は、しゃぶしゃぶの肉を食べながら、ゴマダレの器を指した。
「そっか。俺も、そうかな。」今日から、ゴマダレを好きになろうと思った。
会計は1万円ちょっとで、まだ、俺の財布には、聖徳太子の描かれた札が十枚ぐらい残っていた。
美和子が家に帰っている間に、銀行に行って金を下ろした。
掛けていた生命保険の、入院給付金が振り込みされたのだ。

「これから、あいつがいるホストクラブに行ってみるかい。」
「えっ。ホストクラブ。興味あるよ。一度、行ってみたかったんだ。」
「騙されんなよ。」冗談で言ってみた。
「私なんか騙したって、お金にならないよ。第一、男はこりごりだよ。聡志ちゃんは別だけどね。」
「美和ちゃんのこと、明日から優美では、小夜子さんって呼ばなきゃいけないね。」
俺は、この頃、美和子の名前をそんな風に呼んでいた。
「小夜子でいいのに。」
「駄目だよ。客の手前があるからね。」

「モデルの小夜子みたいに 、美しくなりたいな。」美和子は独り言のように、ぽつりと呟いて
新宿の高いビルよりももっと高い所で、自ら光り輝いているかのように見える三日月を見ていた。


つづく 小説『美和子』64話(道化師)  (11/23)

著作権 (c)夜桜2026
Copyright Yozakura2026,All Rights Reserved

にほんブログ村 小説ブログ 脚本・シナリオへ FC2ランキング参加中 FC2 Blog Ranking




Copyright © 落花流水の情. all rights reserved.
FC2ブログ